元バスケットボール女子日本代表
野口(船引) まゆみ

その道の知られざる匠を探す旅
ballersmindのプロジェクト『"TAKUMI"』

2000年代にバスケットボール女子日本代表選手として活躍。
トップアスリートとして数々の輝かしい成績を持ちながら、
その過程で彼女を襲った「辛い過去」とは?
第9話は、野口(船引)まゆみさん にスポットをあてる。

■プロフィール■
船引まゆみ 選手
https://ja.wikipedia.org/wiki/船引まゆみ
※Wikipedia

小学生の頃からの話を聞かせて下さい。

小さな頃から体を動かすことが好きで、男勝りな女の子だったと思います(笑)

小学校4年生の時に地元、北海道札幌市のミニバスに入ったところからバスケを始めました。2歳年上の姉がそのチームにいて、北海道で優勝を狙えるチームでした。
だから練習は…控えめに言っても物凄くキツかったし、こまめに給水させてくれない時代だったので、よく続けられたなぁ!って自分を褒めてあげたいですね。
とにかく姉に勝ちたくて、認めてもらいたくて、「負けず嫌い」×「前向き」な性格が功を奏してバスケに夢中になっていたんだと思います。

中学校で全中ベスト16、札幌山の手高校で国体3位、愛知学泉大学ではインカレ5連覇、ユニバーシアード日本代表(大学所属選手で構成される日本代表)に選ばれました。

選手として成熟していくほどに、ステップアップを感じることができました。

その過程で、苦労されたことはありましたか?

実は…

小学校6年生の時に顧問(指導者)とよく衝突していまして、途中で退部しているんです。さっきまで自分のこと前向きな性格って言ってるんですけど(苦笑)

その時のストレスが原因で摂食障害になってしまったんです。そこから、中学、高校と。
1番大切な時期に栄養がきちんと摂れない。だから体にも色々な問題が起こる。

バスケはやっていましたしそれなりに活躍してたのですが、10代はずっと…体のことで苦しかったんです。

体調を気にせずにバスケに没頭できるようになったのは、20歳からでした。環境に恵まれて、周りの方のサポートもたくさんあって…
一気にパフォーマンスの花が咲きました。

卒業後は富士通レッドウェーブに入団(2001年)、新人ですぐにスタートとして起用してもらって、オールジャパン3連覇、Wリーグ優勝を経験させてもらいました。

姉も同じチームにいて、
姉妹で掴み取った優勝は一生の宝物です。

船引かおりさん(姉)はどんな存在でしたか?

ひとことで言えば、「ラスボス」ですね(笑)

姉は、努力の天才で、何もかもが完璧だったんです。それで、私がいつも比べられていて…
だから私は「努力」という言葉が大嫌いでした。

そんな姉を超える、絶対に勝ってみせる!
これが全ての原動力になっていたと思います。
20年以上、姉の背中を見続けて走りました。

そして、2008年に北京オリンピックを戦う日本代表に、姉ではなく私が選出(12名)され、世界最終予選を戦いました。
実はこれが、
私が「ラスボス」を倒した瞬間です。

でもね…姉を超えたことで、なぜか寂しくなったんです。
ゲームのエンディングを観ているような…
それほど、私は姉という存在に背中を押してもらっていたんだなと。それが姉への感謝と、努力できる人へのリスペクトに変わった瞬間でした。

船引まゆみさんにとって、バスケットボールとは?

「人生をかけて夢中になれるもの」
たまたま私に与えられたものですが、宝物と思えるかけがえのない経験をさせてもらいました。そしてこれからも。
生涯現役でプレーするつもりです!

2020年東京オリンピックでの女子日本代表は銀メダルを獲得しました。どのような想いで観戦されていましたか?

もう、お母さんのような気持ちでしたね。
教え子や富士通レッドウェーブの後輩たちが出場していて、みんな素晴らしい活躍で、チームも史上初の銀メダル。
感動と感謝の気持ちでいっぱいでした。

2011年にWリーグを引退して、今はどんなお仕事をされていますか?

母校の札幌山の手高校で家庭科の教員をしています。実はもう10年以上のベテラン先生なんですよ!

私の夫は、現役のプロバスケットボール選手(野口大介 選手)です。
北海道でプレーしていた頃は、夫の栄養管理や体調管理を行っていました。

自分がバスケットボールをしてきた中で、私の経験から今できることは、「女性アスリート支援」です。
北海道大学や、FUJITSUファミリ会にて、
現場の指導者や、選手、サポート方々へ向けた啓蒙活動としてのトークセッションや講演をさせていただきました。

また、2019年からバスケットLIVEで解説者として活動させていただいてます。バスケットボールに少しでも貢献できたらと思っています。

ブログもやってるんですよ!
タイトル…可愛いでしょ?(笑)
「船引まゆみのチョコっとブログ」
http://mayumi-f.seesaa.net/

読んでくださ~い!

最後に、あなたの "maxim." を教えて下さい。

「克己(心)」です。
「克己心」を持てと言われると、
「自分に打ち勝て!」みたいな強いイメージがありますよね。

私の持っている「克己心」は少し違って…

自分の良い所も悪いところも愛し受け入れ、自分をコントロールしながら、人生を豊かにする目標を達成していく

というような考え方です。

もっと簡単に言えば、
「産まれてきたことに感謝し喜び、自分の人生を謳歌する!」というような感覚です。

「自分の人生楽しかったなぁ。思い残すことはないなぁ。」って死ねたら最高ですね!!(笑)

何が起きてもおかしくない世の中で、
明日、自分が死ぬとしたら最後に何をしたいかなぁ?って考えると、沢山したいことが思い浮かぶんです。

最初に浮かぶのは家族です。
「愛してるよ!!!」って伝えたい。

次に、両親に親孝行したいとか、
姉弟や友人に会いたいとか…
それを、自分の気持ちのままにやっていくと本当に毎日がハッピーになると思います。

幼少期は自分の気持ちをコントロールできなくて、よく人とぶつかっていました。特に大人には嫌われる子どもで(笑)
周りの大人は全部敵!みたいな時期がありました。

それが徐々に変わってきたのは
バスケットボールを始めてからだと自覚しています。

過度なストレスとの戦いと、克服。
その経験があるからこそ彼女は今、
「私らしく」あることの大切さと出会い、
本当の豊かさとは何か?という答えに辿り着こうとしている。
バスケットボールが持つ魔法の力は、
人生をも鮮やかに彩るのだ。